HOME>コラム>〜今の時代こそ、落語を〜噺家 桂藤兵衛さんに聞く〜
「神田は古典芸能のメッカ。昔は寄席も多かった。神田が舞台になっている噺が多いのがなによりの証拠」と話す藤兵衛さん。1987(昭和62)年に古典落語を聴く会「藤兵衛会」をスタートさせ、神田に拠点を置いてかれこれ20年以上になる。おかげで馴染みの神田っ子も多く、古老から江戸訛りや言葉遣いを教わったことも
藤兵衛さんは中学のころ噺家を志し、高校卒業とともに迷わず八代目林家正蔵に入門。
何か通じるものを感じたという師匠のもとで研鑚をつみ、今は古典落語にこだわった活動が中心だ。
自身も地元民であるため地域へ寄せる思いは強い。
だから神田で寄席を復活させたいと地道な努力を重ねている。
落語を含め、今の芸能は単純ですぐに笑えるものが優先されがちだが、本来の江戸の笑いはもっと上質で奥ゆかしいもの。
四百年以上の歴史もさることながら、もとはお坊さんの説法から派生したともいわれる。 落語の歴史は古いのだ。
「落語は伝承芸です。芸の部分をおろそかにしてはならない」と現状を危惧する。
もちろんそれは聴き手にもいえることで、安易に笑いを求めてしまってはいないだろうか。
芸は、知性や教養を土台に磨きあげるもの。
しかも一朝一夕には会得できるものではない。
「だから今こそ、話芸という伝承芸にきちんと取り組まなくてはならない」
こう語る藤兵衛さんは、あくまで古典にこだわった「伝承話芸を聴く会」を2005年からスタートさせた。
だからといって、落語を堅苦しいものだと思わないでもらいたい。
一度でも寄席に足を運んだことのある方はお分かりだろうが、お気に入りの噺に出会えるのも楽しみの一つ。
「落語はちゃぶ台と座布団さえあればいい。いつの間にか聴き手を創造の世界へ誘ってしまう。そこが魅力だね」
と藤兵衛さん。
情報の氾濫した現代は、苦労せずに欲求を満たすことができる世の中になってしまった。 だからこそ、落語を聴いて頭の中をリセットしてもらいたいという。
「結局、噺の中身は髷結っている人間が出てくるわりに、今を語っているものが多い。そこがいいんじゃないかな」
かつて、神田川沿いにある柳森神社には組立て式の高座があり、人間国宝の小さん師匠などがその話芸を披露していたという。
そう、神田には気軽に笑い集う場があった。
それがまた粋だった。
だから、神田にぜひとも寄席を開きたいと藤兵衛さんは意気込む。
藤兵衛さんの落語を聴いて、つかの間の粋な浮世へタイムスリップしてみてはどうだろう。
かつら・とうべえ●1952(昭和27)年文京区出身。
69年八代目林家正蔵(のち林家彦六に改名)に入門、林家上蔵を名乗る。
84年真打昇進。三代目桂藤兵衛を襲名。
(社)落語協会所属。風流演芸アカデミー主宰。
お問合せtel.03-3237-8748
タウン誌『KANDAルネッサンス』80号(2007.1.25発行、NPO法人神田学会)
(07.10.02)